ブラックモンブランをご存知でしょうか

ブラックモンブランをご存知でしょうか。竹下製菓株式会社*1が製造する、九州・山口では大抵のスーパーに置いてある棒付きのアイスです。数年前関東圏でも流行したと聞きましたが、元から全国区のアイスだと思っていた一九州島民にはあまりにも意外な話題でした。

パッケージにはアルプス山脈の写真が印刷され、覆いかぶさるように派手派手しく「ブラックモンブラン」のロゴと商品写真、当たりくじに関する宣伝が載っています。裏面も、成分表よりも多い面積に当たりくじに関する情報が盛りだくさんです。

ブラックモンブランは棒についたバニラアイスがチョコレートとクッキークランチでコーティングされています。原材料名で一番最初に書かれているのはクッキー。100円出せば悠々とおつりが返ってくる棒付きアイスにクランチなんてお洒落な言葉は似合いませんので、ただクッキーと呼ぶことにいたします。

ブラックモンブランを食べるには慎重さと大胆さが必要です。

袋を開けて棒を掴み、アイスを取り出そうとすると、周りのクッキーが袋と擦れて落ちてしまいます。できるだけクッキーをこぼさぬよう、細心の注意を払って取り出さねばなりません。ザクザクという擬音が付きながらも少し湿り気を含んだクッキーは、たとえこぼしてしまったとしても、ひと粒ずつ拾い集めて後で食べてしまえばよいのです。それでも、できる限りアイスと共に味わうために袋から出した後もゆっくりと持ち運ぶのが安全な食べ方でしょう。

アイスはクッキーとチョコレートにコーティングされていますから、アイスキャンディーやソフトクリームのように舐めるわけにはいきません。触れれば崩れてしまいそうなクッキーを落とさぬようにするには、唇でうまくアイスを丸め込む技術が必要です。当たりくじ付きの棒アイスに、お行儀よく食べるなどという遠慮はいりません。コーティングを落とさぬよう大口を開けてかぶりつきます。

硬さを保ちながらも冷たい水分を含んだクッキーと、少し柔らかめのチョコレート、アイスクリームでもラクトアイスでもない、アイスミルクの甘みが混ざり合い、喉を通る頃には少しの香ばしさも感じるでしょう。コーティングに歯ごたえを感じながらも、どこかふんわりとした食感で口の中になめらかに味が広がっていきます。もたもたしているとすぐに溶けてしまうので、勢いよく次のひとくちに移ります。ともすればありきたりで大味な組み合わせになりそうなものですが、後味は色濃く、飽きることなく口に運べる一品です。

食べていくうちに棒が姿を現しはじめます。棒に印刷されたくじは毎年デザインを変えているそうです。単純に当たり外れが書いてあるのではなく、全て食べ終わるまでくじの結果がわからないようになっています。当たりは点数制になっていて、何本かの当たりくじを集めてアイスと交換という手の込みようです。別枠で特賞も設けられ、特賞を引き当てた場合は竹下製菓へ郵送する必要があります。

慎重に、しかし大胆にたいらげるアイスは棒にしみついたチョコレートまできれいに舐めとってしまって、最後にまろやかな甘みを残してくれます。こぼれてしまったり、袋の中に残っているクッキーも残さず食べてしまいましょう。棒も芯まで吸い尽くすのがよろしい。

PARMのような贅沢さやあずきバーのような王道路線とも少しずれているブラックモンブランは、子ども向けのようでいて仕事に疲れた日の風呂あがりにも最適です。何もかもいやになったとやさぐれた時、勢いよく口に入れられる気軽さと、歯触り良く甘みを存分に味わえる組み合わせを持つこのアイスに救われる日もありましょう。 

ネット通販ではまとめ買いができるようですが、少しだけ当たりくじに期待を寄せながらひとつ手にとってお店のレジへ向かうのが、棒付きアイスの買い方のようにも思います。 

以前、本州へ出張する際に九州のとんこつラーメン「うまかっちゃん」を大量に買い込んで持って行ったという逸話を持つ方がいらっしゃいました。きっと私はそんな時、ブラックモンブランをお供に連れてゆくのかもしれません。