オブラートに包んで貧困を語りたくはない/大西連『すぐそばにある「貧困」』

うまく言葉にできませんが、明日は我が身、と思った本です。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長を務める著者が、生活困窮者支援を通してみた貧困について綴った『すぐそばにある「貧困」』(大西連/ポプラ社)。 

すぐそばにある「貧困」

すぐそばにある「貧困」

 

 「何故貧困に陥るのか」「どうしたら貧困という状態をなくせるのか」といったことについて、本書では詳しく書かれていません。生活困窮者をとりまく環境や、支援団体などの実情を語ることで、「貧困とは何か」を問いかけてきます。

「貧困問題」と聞くと、自分とは関係のない、どこか遠い世界の話だと思う方もいるでしょう。

でも、今や日本人の6人に1人は相対的貧困*1状態にあるとされ、僕たちと貧困を隔てる壁は、限りなく薄く、もろく、そして見えづらくなっています。(p8)

雇用や住まいの変容によって生活困窮者の年齢層は拡大しており、高度経済成長期の担い手世代から若年層にまで至っています。

しかし「ホームレス」の人は減少しているという調査結果もあり、住まいの状況に応じて生活困窮者を区分けした表が示されています。

生活困窮層(住まいの状況による区分け)

A 定住型「ホームレス」:屋外にテントや小屋を建てて路上生活

B 移動型「ホームレス」:段ボールを持って移動しながら路上生活

C たまに「ホームレス」:お金がある時はネットカフェなど、ない時は路上生活

D ネットカフェ難民  :ネットカフェやファストフード店などで生活

E 不安定住居層    :脱法ハウスや安宿など宿泊施設等で生活

F 住居喪失予備軍   :住み込み層や実家暮らし(ニート・引きこもり)等

(p53)

上記のうち、国が定義するホームレスはA群とB群とされていますが、B~D群は実体としてホームレス状態であっても統計的に掴みにくいといいます。

この表を見た時、自分は少なくともD~F群になる可能性があると感じました。私は非正規雇用での就労者で、なおかつ現在休職しているからです。雇用契約を打ち切られる可能性があり、心身に不調を抱えています。幸い親族が近所におり、貯蓄も少しはあることから、突然住環境を失い「ホームレス」になることはないと考えられます。ですが、困窮時に絶対的に親族を頼れる確証はなく、貯蓄を頼りに安宿やネットカフェなどを転々としなければならない可能性もゼロではありません。

このような考え方は悲観的過ぎるのかもしれませんが、6人に1人が陥っている「貧困」に対して当事者意識を持たなければ、いざ困窮状態に直面した時、そのままのみ込まれてしまう不安を感じています。

また、若年層に対しては「貧困男子・貧困女子」といった言葉もあるようですが*2、貧困に陥ることで生命の危機に直面する可能性も発生するのに、事態の深刻さを薄めた表現と感じてしまいます。第三者目線で語るためのカテゴライズであって、当事者意識を持たせるには軽々しくもあり、内情を知らずとも言葉だけが独り歩きする危険さを孕んでいるように思えてなりません。

困窮状態に直面した時、いくら知恵と工夫と前向きな気持ちで暮らすとしても、貧困である状況は変わりません。環境に順応するのではなく、脱出しなければならないと思うのですが、その方法について答えは出ていないままです。

非正規雇用から正規雇用になれば大丈夫かといえば、貧困に陥るリスクは減るとはいえ、貧困状態をなくす対策にはならないと思っています。正規雇用であっても職を失う可能性はあり、心身の不調や家族の問題などで生活が変容してしまう場合もあるためです。

個人で生活基盤の安定を図ることを前提に、セーフティネットを設けることは必要ですが、それらが思うように機能しないことについては、様々な事例が綴られています。生活保護を受けることに対する抵抗感や、環境が整っていない一部の支援施設、生活困窮者に対する誤解や偏見、それらを目の当たりにして、著者はどのように貧困という目に見えない問題を捉えていけばいいのかと問いかけます。

「生活保護=こんな人」「貧困=こんな感じ」なんて図式は成立しない。一人ひとりに向き合うしかない。そして、それと同時に、制度や政策、社会の仕組みについてはある程度、普遍化していく必要がある。(p254)

自分に何ができるわけでもないのだけれど、答えを探そうと問題に向き合うことをやめずにいたいと感じた本でした。

本当はもっといろいろ考えたことや感じたことがあるのですが、うまく言語化できません……。

*1:その国で生活している人のなかで、相対的に貧困状態にある人がどのくらいいるかという指標で、国民一人ひとりを所得順に並べた時、真ん中にくる人の値の半分に満たない人の割合を指します(p27より引用)

*2:Amazonで検索したところ、「貧困女子」とタイトルについている書籍は複数ヒットしましたが「貧困男子」と冠する書籍は見つかりませんでした