特別展 京都 高山寺と明恵上人 - 特別公開 鳥獣戯画 -に行ってきました

九州国立博物館での特別展「京都 高山寺と明恵上人-特別公開 鳥獣戯画」10月の前期展示を観てきました。

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鳥獣人物戯画が展示の目玉で大々的に宣伝されてますが、主役は明恵上人。鳥獣人物戯画が収められている、京都の高山寺を開いたお坊さんです。冒頭の鳥獣人物戯画の後、明恵上人の生涯と高山寺について書や絵、像が展示されています。

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鳥獣人物戯画はかわいいし細かいし特に甲巻の筆運びが丁寧で綺麗だったんですけど、明恵が結構キャラの立ったひとで、正直国宝よりインパクト大でした。自分で耳を切ったり、インドまで歩いて何日かかるか真面目に書き残してたり、唐美人ええなぁと絵巻物を作らせたりと、いろいろなエピソードを紹介した「レジェンド・オブ・明恵」という愉快な冊子が配布されています(公式サイトからもDL可)。

九州国立博物館 | 特別展『京都 高山寺と明恵上人 - 特別公開 鳥獣戯画 - 』

鳥獣人物戯画に限らず、展示品のほとんどが国宝や重要文化財でしたが、明恵の夢日記とか、勝手に作った神様の像とか、あまり身構えることもなく楽しく観られます。「主役は私です」とチラシでさりげなく主張する通り「いろんな品を収めてる高山寺の祖・明恵ってこんな人」な展示でした。

 

明恵は自ら宗派を開いたひとではないですが、奈良時代に成立したとされる華厳宗に密教をプラスした独自の宗教観を持っていたそうで、釈迦宛てに手紙を書いたり、涅槃会の時は自作テキスト作ったり、拾った石を釈迦と思って大事にしたり、仏が好き!感がものすごいです。

華厳宗を新羅に広めた義湘の留学エピソードに現れる善妙という女性がお気に入りで華厳宗祖師絵伝を作らせているんですが、展示されていた2巻と3巻では義湘が善妙に告白されるも仏門の身なので断った後、船に乗ったら忘れ物を届けるために善妙が龍に変化して追っかけて来てくれたという、女性がとっても優しい道成寺伝説のような絵巻物でした(後期展示では義湘ではなく元暁という僧の話らしいです)。善妙が本当に好きだったらしく「明恵オリジナルの神です」と説明書きされている善妙神立像までありました。勝手に神格化して祀っていたんだと思うんですけど、こんなことしていいの……?

見ているうちに、二次創作に創作キャラ登場させて活躍させる夢女子とか、推しキャラの誕生日やイベントにクルーズ予約しちゃう腐女子に通ずるものがあることよなあという気になってきました(明恵上人は女子じゃないですけど)。友だちにいたら楽しいけど、時々ちょっとひくわ……と生温かい目で遠くから見つめることになりそうです。

あといろんな仏が載ってる曼荼羅図が結構あったんですけど、円形状に絵柄が配置されていなくて、ポケモン151匹載ってるポスターみたいに縦横に整列した、カタログのような曼荼羅ばかりでした。当時としては珍しい柄だったそうです。

書はともかく、絵巻物や曼荼羅のような絵は本人が描くのではなく絵師に依頼しているわけですが、お坊さんの好みやら謎の企画にあわせていろんな絵図をひねり出した絵描きのひとは本当にすごいと思います。明恵の依頼を受けて絵を描いていたとされる詫間俊賀という絵師についても少しだけ説明がありましたが「仏画ならオレにまかせろ!」とどんな注文も快く引き受けていたのか、「明恵さんまた、ようわからん絵の依頼してきよった……」みたいな感じだったのか……。

 

自由で熱心で仏好きすぎる明恵ですが、相当孤独だったのではないかという印象もありました。弟子はいるし、最期を迎える前には多くの人が明恵の死を案じさせるような夢をみたというエピソードからは彼の人望の厚さが窺えます。ただ、寄る辺ない思いで過ごしていたからこそ幅広い信仰を持っていたのではないかと。

明恵が生きたのは浄土宗や日蓮宗といったテストに出そうな宗派が開かれた時代で、宗派を超えてお坊さん同士の交流もあったそうです。臨済宗や曹洞宗のような禅宗もこの頃中国から伝わってきていて、お茶を輸入してきた臨済宗の栄西から明恵に贈られた茶入が展示されていました。

そんな時代でも、中央の派閥争いを避けて地元で修行に打ち込みたいと若い時は京都を離れていたそうで、他の僧との交流はあったとはいえ、動物だけでなく石や島にも思いを寄せたなんて話を聞くと、少しでも仏の傍に行きたいと考え通しだったんだろうなという気もします。

これくらい自分の追い求めるものに真摯に向かって行く生き方って、ある種の寂しさはあるかもしれませんが、すごく自由で気持ちよさそうです。

 

余談ですが、西鉄電車を利用したらステキな太宰府観光列車「旅人(たびと)」に乗れました。車両ごとに内装が違っていて、観光列車らしくスタンプも用意されています。縁結びで有名な竈門神社とのタイアップ企画で車内に願いごとを書く紙もあり、太宰府に着いたら直接竈門神社に持って行ってもいいし、車内の祈願箱に入れれば西鉄電車が代わりに神社へ奉納してくれるそうです。

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西鉄電車で行く場合、西鉄の九州国立博物館きっぷが少しだけお得です。太宰府天満宮の宝物殿や菅公歴史館にの割引券なんかもついてます。渋滞もないし、西鉄大宰府駅からすぐに参道に出られて、天満宮にも博物館にも行きやすいです。

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西鉄の回し者ではないんですけど、太宰府というか太宰府天満宮が好きなので……。
時期によっては受験生と海外からの観光者だらけになりますが、緑いっぱいで梅が枝餅食べながらのんびり過ごせる、気持ちのいいところです。

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