誰かが読んだ本を私は読んでいて、私が読んだ本を誰かが読んでいる

図書館で本を借りると、ときどき誰かの貸出期限票が挟まったままになっています。栞代わりに使っていてそのままにしていたのか、存在自体を忘れて放置していたのか、本来であれば借りた当人が持っておくなり捨てるなりするものが突然目に入るのは不意打ちを喰らうようです。

返却期限日と借りた本のタイトルが載っているそれは、見知らぬ誰かの本棚の一部を覗き見たようで、若干の罪悪感を呼び起こすと共に想像力をかき立てられます。

借りた本を過去に読んだ誰かの貸出期限票には、読んだことのないタイトルが並んでいます。SF、時代小説、サスペンス、自分と同じこの本を読みながら、全く知らない本も手に取ったその人物は何を感じていたのだろうと思いました。

きっと本の好みも読み方も違うだろうけれど、1冊の同じ本を手に取ったという共通項があることは、ひとりきりで本を読んでいるという孤独感を和らげてくれます。今借りている本を読み終えたら、偶然見つけた貸出期限票の本を探してみようかと、思わぬ本に出会うきっかけになることもあります。

図書館は私にとって本を読んだり借りたりするところなので、いつも見かける気になるあのひととか、同じ本に同時に手が伸びてお互いすみませんと言いあってしまうとか、そんな漫画みたいな展開にはあまり期待していません*1。でも、本の小口の印鑑や、うっすらと付いた手垢の跡や、挟まったままの貸出期限票に誰かの影を感じることができます。知り合いができるわけでもなく、日常に何の変化ももたらさないけれど、ふとした瞬間に見知らぬ誰かの存在に気づく、不思議な感覚です。

なんだか自分が気持ち悪い奴のように思いもしますが、書店で本を購入する時には味わえない、図書館を利用する楽しみでもあります。

*1:そんな展開あったらいいなとは思っている