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わたしの靴で歩いていく

13630円が、3年間の買い取り価格だった。あのひとに合わせて買った本やDVDは紙袋ひとつに収まる程度の量で、つぎ込んだお金に対して手放した時の戻りはあってないようなものだった。あのひとがプレゼントしてくれたあれやこれやも、ずいぶんよそよそしくて魅力を感じないものに成り下がってしまった。

そのうち頭から足の先までコーディネイトしてあげる、とあのひとは誕生日やイベントごとに衣服や小物をくれたけれど、受け取ったわたしがどう思っているかは、あまり気にしていないようだった。別に変なものをプレゼントされたわけではないし、あのひとがくれたものだからという理由でそれなりに愛着もわいていたのだけれど、どうにもしっくりこないままネックレス、ワンピース、バッグときて、靴まではたどり着かなかった。

とにかく好きになりたくて好かれたくて、あのひとの好きなものを片っ端から調べ上げた。共感できるものもよくわからないものも、全部ひっくるめて理解したかったし話したかった。けれど、話をしても外面をなぞるばかりで踏み込めなかった。代わりにわたしの好きなものの話をすると、話を聞いて受け入れてくれているようで、結局のところ無頓着だった。ひとりで歩いていることに遅まきながら気づいた頃、靴には穴が開いていた。

あなたは言葉を大切にするひとなんだね、と初めて会った時あの人は言った。でも、ゆっくりと語り合おうとするとすり抜けてしまう。もっと知りたい、知ってほしいと思えば思うほど躱されて、言葉でつながろうとすると言葉で壁をつくられた。ふたりだけで通じる言葉がほしいなんて甘ったるいことを考えていたけれど、ひとことも見つけられないまま終わりを迎えた。

靴をプレゼントされなくてよかったと思う。頭から足の先までコーディネイトされた時、きっとわたしは身動きのできないなにかに成り代わってしまっていただろう。うわべの優しさに覆われたものを身につけて、足に合わない靴を履いて、もうどこにも行けない人形になっていただろう。

感情だけでは立ち行かず、言葉だけでは前へ進めなかった。流れ去った3年間の代償は大きい。あのひとの言葉に甘えきって、穴の開いた靴にも気づかず、どこかへ向かっているつもりだった愚かさ。今は誰かと歩くにはみっともなくて、ひとりで歩くにも裸足同然で、代わりの靴を探すけれど靴箱はからっぽだ。だからといって、歩くことを諦めるわけにはいかない。通じあえなかった言葉と踏み込めなかった一歩を着地させる場所に巡りあうまでは。

わたしは手にしたわずかな戻りで、自分の足で踏み出すための靴を探しに行く。