それいぬ -はたして正しい乙女になれたのでしょうか-[今週のお題「人生に影響を与えた1冊」]

今読んでもなお、思うように生きられぬ己に寄り添い、戒めてくれる本です。
高校生の頃に出会い、毎日のようにページを繰っていた嶽本野ばらの『それいぬ 正しい乙女になるために』。  

それいぬ正しい乙女になるために (文春文庫PLUS)

それいぬ正しい乙女になるために (文春文庫PLUS)

 

当時は文庫版で読んでいましたが、現在はKindle版も出ているのですね。

本書は関西で発行されていたフリーペーパー『花形文化通信』に連載された嶽本野ばらのエッセイ集です。乙女とはかくあれという心強いエッセイに本や映画、アートへの考察、特定の場所に対する抒情的な文章もあります。連載期間は1992年から1997年だそうですが、今読んでもそのまま響いてくる内容ばかりです。エッセイなので、どこから読んでもいいというのも利点ですが、私にとっては執念と根性でほしいものを手に入れる強く孤高な乙女となるためのバイブルであります(乙女にはなれぬというのは置いておく)。

思うようにいかぬと行き詰るとき、未だに読み返します。お友達がいなくても、自分がすごく汚く思えても、消えてしまいたいと思っても、受容してくれる一冊です。かと思えば、理想に背を向けて放り出してしまいそうな時に踏みとどまる勇気をくれる本でもあります。

私事ですがご多分に漏れず自意識過剰だった頃、友達が本当にひとりもいないという事態に陥っていたことがあり、休み時間はずっと図書室に通っていました。当の本人は寂しさに涙するようなこともなかったのですが、自分は周りとは違うという過剰な疎外感を覚えていました((後に友人から当時の私について「三角形どころか八角形くらいにとんがったバリアが張られていて話しかけづらかった」と聞かされました。孤高な乙女像を描き、田舎の高校生にとっては見たことも聞いたこともない世界にあふれたエッセイは、折り合いのつかない目の前の現実に立ち向かうための後ろ盾となってくれました。中井英夫も澁澤龍彦も森茉莉も、この本から出会えたといっても過言ではありません。東京の歌舞伎座へ行った時も行程に弥生美術館を加えました。

この本を読み始めた頃に思い描いていた将来と、今の姿は正直あまりにもかけ離れています。それでも、これまでに出会ってきたもの、積み重ねてきたことを辿っていくと、始まりは同じものだったような気がしています。

ブログってどうしたらいいのかしらんと、とりあえず今週のお題に乗っかってしまったわけですが、今こうして曲がりなりにも生きているのはこの本のおかげでもあります。学生さんにはもちろんですが、社会人になってから読むのもまた違った読み方ができておすすめです。